アジャイルとコミュニケーション


こんにちは、ライトパスの建守です。ちょっと間が開いてしまいましたが、今回はアジャイルプロジェクトにおけるコミュニケーションについて考えてみたいと思います。

みなさんはどのような手段で人とコミュニケーションをとっていますか?ビジネスにおいては、

  • 対面(Face-to-Face)
  • 文書
  • 電話
  • 電子メール
  • チャットツールやSNSなどのカジュアルなメッセージングツール

といったあたりが考えられるでしょうか。

近年では特に、デジタルツールを使う場面が増えてきていると感じます。仕事でチャットを使うのは当たり前、ネットミーティングシステムを使って離れた場所にいる人と打ち合わせをするなどといったことも珍しくなくなってきました。

そうした中、アジャイルソフトウェア開発(以後、アジャイル)ではコミュニケーションについてどのようなアプローチをとるべきとされているのでしょうか。

コミュニケーションの重要性

「アジャイルソフトウェア開発宣言」ではアジャイルで重視すべき4つの価値を挙げていますが、最初の一つがコミュニケーションです。該当部分を抜粋してみます。

プロセスやツールよりも個人と対話を・・・価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

「プロセスやツールよりも個人と対話を」のあとに3つのことが書かれていますが、ここでは省略します。興味のある方は、「アジャイルソフトウェア開発宣言」と、それについて解説した以前の記事をご覧ください。

 

アジャイルが勧めるコミュニケーション手段

さて、アジャイルが重視する4つの価値のうち1番目が「個人と対話」(Individuals and interactions)であるということはつまり、アジャイルではこれが最も大事であると考えるということです。
では、この大事な大事なコミュニケーションをとるにあたって、アジャイルはどのような手段を勧めているでしょうか?これは、「アジャイルソフトウェア開発宣言」に付随する「アジャイルソフトウェア12の原則」に書かれているので、これまた抜粋してご紹介しましょう。

ビジネス側の人と開発者は、プロジェクトを通して日々一緒に働かなければなりません。
Business people and developers must work together daily throughout the project.

情報を伝えるもっとも効率的で効果的な方法はフェイス・トゥ・フェイスで話をすることです。
The most efficient and effective method of conveying information to and within a development team is face-to-face conversation.

これ以外の原則にもコミュニケーションに関わるものがありますが、直接的に言及しているものということで上記2つを挙げてみました。要は、「一緒に働く」「フェイス・トゥ・フェイスで話す」のが原則ですよ、ということです。

 

ローテク、ハイタッチ(Low-Tech, High-Touch)

今のご時世に何言ってるの?と思われるかもしれませんが、これにはれっきとした理由があります。主な理由を2つ、挙げてみましょう。

まず、デジタルなツール(ハイテクな手段)は、アナログな手段(ローテクな手段)に比べて伝わる情報の量・密度が少ないのです。フェイス・トゥ・フェイスの場合、話される言葉のほかに、声のトーン、表情、ジェスチャーやしぐさ、視線、服装などによって相手についてより深く、細かく知ることができます。ネットミーティングはフェイス・トゥ・フェイスに近い状態を作り出すことができますが、画像が不鮮明であったり、情景の一部しか映されなかったりといったことがおこるので、実際に会って話すことに比べれば読み取れる情報量は少なくなります。これが理由のひとつ目。

ローテク、ハイタッチが好ましいとされる理由の二つ目は、多くの人が使える手段だということです。ハイテクなデジタルツールは、それが高機能で便利であるほど、使いこなすには修練が必要になります。ですから、そうしたツールをコミュニケーションのベースとして取り入れる場合は、関係者にツールのトレーニングを施す必要があります。それに対して、会って話すことは、地理的・時間的制約をクリアできれば何のトレーニングもなく実行できます(障がいをお持ちの方の場合はちょっと工夫が必要ですが)。だったら会って話すほうが効率的、つまり顧客に対して価値ある成果物をより早くより多く生み出すことができる、と考えるのがアジャイルです。

 

コロケーション(Co-Location)

フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを実現するには、上にちょっと書いたように、地理的・時間的制約を何とかする必要があります。つまり、顔を合わせるための場所をセッティングして、そこまで移動し話をするための時間を確保するということをしなければなりません。

電子メールやチャットツールはこのあたりの問題を解決するのに優れたツールです。ただ、伝わる情報量を考えるとやはりフェイス・トゥ・フェイスのほうがよい。ではどうするか?そのために推奨されているのがコロケーションです。

コロケーションは英語の綴り(Co-Location)からわかるように、共有の場所といった感じの意味です。コミュニケーションを必要とする人たちを一か所に集めて仕事をしてもらえれば、時間と場所の制約はほとんど考慮しなくてよくなります。相手を見つけて「今ちょっとよろしいですか?」と声をかけ、OKをもらったら打ち合わせ開始です。

 

情報の共有

コロケーションには、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションをとりやすくするということのほかにもメリットがあります。

メンバーのAさんとBさんがある問題の解決策を求めて会話をしているとき、その隣で作業しているCさんも会話の内容が伝わります。もしCさんがその問題について解決につながる情報を持っていたら、その場で会話に加わってその内容をAさんとBさんに伝えることができます。
Cさんが解決策を持っておらず、AさんとBさんの会話に加わらなかったとしても、その後CさんがDさんと雑談をする中で「さっきAさんとBさんがこんなことを話してたよ」と伝えたら、Dさんが実はその問題の関係者であることがわかり、AさんCさんに新たな情報を提供することができることができた、なんてことが起こるかもしれません。

こうしたナチュラルな形で情報が伝播・共有されるのがコロケーションの利点です。

 

まとめ

アジャイルでは顧客に真の価値をもたらす成果を素早く出すことを目指します。そのためにコミュニケーションは何より重要であり、もっとも効果的な手段はフェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションです。これをやりやすくするには関係者が一か所に集まって仕事をするのがよく、みんなが集まることでさらなる情報のスムーズな伝播が期待できます。

デジタルツールは便利ですし、使いこなせればちょっとカッコいいし(笑)、安く(あるいは無償で)利用できるツールも数多く存在するので導入へのハードルは低いと思いがちです。でも実は、ローテク、ハイタッチなやり方のほうが、伝えられる情報量が多かったり情報の鮮度を保ちやすかったりすることも多いのです。

ITプロジェクトだからと言ってデジタル武装をする必要はありません。自分たちの状況に最適と思われる手段のうち、もっとも手軽でより多くの人が使えるものを取り入れるようにしましょう。